内水氾濫解析における排水路モデルの取り扱いについて

はじめに

近年、地球温暖化の影響により降雨量が増加傾向にあり、地方都市においても内水氾濫の被害リスクが増大しています。地方都市の1つである徳島市でも、平成26年台風12,11号などの豪雨により、浸水被害が発生しています。徳島市などの地方都市では下水道が未整備のため、排水路(開水路)により雨水排水を行っている地区が多く、そのような地区において数値解析により内水被害を予測しようとすると、地表面流の計算(以下、地表面モデルという)とは別レイヤーで排水路の流れを計算する(以下、排水路モデルという)必要があるため、予測しようとする地区の排水路の断面・敷高を測量する必要があります。しかし近ごろ、地域によっては5mメッシュや2mメッシュの詳細な地盤標高データが公表・販売されており、このような地盤標高データには排水路を地表の起伏として反映されていることがあります。

2. 解析手法

(1) 内水氾濫解析モデル

本稿では解析コードX-Okabe(商品名:氾濫解析AFREL)を使用しました。本解析コードでは、二次元不定流モデル(地表面モデル)、一次元開水路不定流モデル(排水路モデル)、一次元管水路不定流モデル(下水路モデル)の3個のサブモデルを結合することにより構築されています。本研究で対象とした地区では下水管路が未整備のため、下水路モデルは使用していません。また,排水路網、雨水排水用下水路網、水門・樋門、排水機場など、実在する内水排水関連施設の効果を考慮することが可能です。なお、5mおよび25mメッシュの解析での地盤標高はメッシュ内既知点の平均値を用いることとしました。

(2)地表面モデルと排水路モデルの関係

地表面モデルと排水路モデルの関係を図-1に示します。まず、降雨量が地表面の水深として与えられ、地表面レイヤーにおいて隣接するメッシュ間の地表面の流量を計算します。排水路は地表面メッシュの中央を走るよう、モデル化されています。排水路が存在するメッシュは、段落ちの流れとみなすことにより、地表面から排水路への流入量が算定され、地表面レイヤーから排水路レイヤーに水量が移行します。排水路の水位が地表面の水位より高い場合は、その逆に排水路レイヤーから地表面レイヤーに溢水量が移行します。排水路が存在するメッシュが隣接する場合は、排水路レイヤーにおいて隣接するメッシュ間の排水路内流量を計算します。

図-1 地表面モデルと排水路モデルの関係

3. 対象降雨と対象地区

(1)対象降雨

対象降雨を図-2に示します。対象降雨は計算開始0時間目から3時間まで60mm/hrの降雨強度の降雨波形の仮想降雨を想定しました。

図-2 対象とした降雨波形

(2)対象地区

対象とした論田地区は、徳島市の比較的郊外部に位置する地区です。当地区の排水系統を図-3に示します。当地区は下水路が未整備であり、排水路と内水河川(打樋川)を通じて、流末の排水機場により堤外への排水を行っています。図-3中水色部については川幅が25m以上であるため、25mメッシュでの解析において、排水路モデルを用いずに、地表面の起伏として内水河川をモデル化しています。

図-3 論田地区の排水系統

4. 解析結果と考察

Case1,2,3の3ケース最大浸水深分布を図-4に示します。図-4には、3ケースの最大湛水量と床上浸水の基準となっている0.45m以上の最大浸水面積も併せて示しました。3ケースの最大湛水量を比較すると、Case1では43.2万m3、Case2では80.9万m3、Case3では47.5万m3でした。また、3ケースの0.45m以上の最大浸水面積比較すると、Case1では39.3万m2、Case2では83.6万m2、Case3では45.6万m2でした。 これらから、5mメッシュで地表面モデルのみの解析は、25mメッシュでの排水路モデルの影響を最大湛水量では88.6%、最大浸水面積では85.6%反映できていると考えられます。そのため、5mメッシュでの解析は排水路モデルの影響を概ね反映できており、5mメッシュでの解析は地表面モデルのみの解析でも実務的な支障はないと考えられます。

図4 計算結果の比較